KOSHO
これまでに数々のデザイン賞を受け、MoMAミュージアムショップにも採用された帆布バッグのKOSHOが2023年9月に直営店を藤森にオープンしました。ポップアップや通販で人気を博してきたKOSHOにとって、コストのかかるリアルショップを持つにはどんな背景があるのか、代表の小川光章さんとショップを切り盛りする中村江里さんにお話を伺いました。
オンラインが直営店を生んだ
「直営店の必要を感じたのはコロナ禍でオンラインの世界観を知ったことです」という小川さん。それまで百貨店のポップアップや取次店を通じた販売を行っていたKOSHOですが、コロナ禍でこうした販路はクローズ状態に。危機を感じた小川さんは、それまでは業者に委ねていたオンライン販売を自ら行うようになりました。
「オンラインの世界はとにかく規模が大きい。これまで私たちがやってきたポップアップでの販売などとは違いオンラインの世界では、日本全国から海外までリアルに繋がっていて小規模の事業者でも工夫次第で戦う、入る余地があると感じました」という小川さん。一方、スタッフの中村さんはオンライン販売を直接手がけるようになってお客様のリアルな声が届くようになったといいます。
「コロナ禍の際に、お客様からバッグを実際に見たいが、どこで見られますかとか、色や大きさを選びたいけれどどうすればいいか、という声をいただくようになりました。実際に工房までいらした方もありましたが、工房ではご覧いただくスペースや品揃えが充分ではなかったのでショールーム的なものが必要だと感じるようになりました」。実はコロナ前からKOSHOへの出店の依頼はいくつかあったのですが、商業施設や観光地に出店するのは、丁寧なものづくりと日本の伝統色の色合わせにこだわるブランドコンセプトに合うのかという迷いがあったといいます。そこで工房からも近い藤森駅の側にいい物件があったことから2023年の初頭からショップの構想をスタートさせました。
BtoBからBtoCへの転換で得たもの
白を基調にしたシンプルなインテリアで、バッグの色が映える店内。KOSHO店舗の設計にも小川さんのこだわりが表れています。施工業者の選定も3社ほどと面談し、コンセプトを理解し、イメージを共有できるところを選びました。これまでポップアップの店頭や展示会で感じてきたお客様の声と向き合う環境づくりが念頭にあったのでしょう。さらにオンライン販売を自らで手がけたことで“伝えたいことを伝えれば反響はある”という実感から導き出されたものかもしれません。「オンライン販売をそれまでのEC業者への委託から自社サイトに切り替えたことで、発信へのレスポンスの早さを実感しました。以前は新聞や雑誌に取り上げていただいたら、効果はゆっくりですが長くつづきました。メディアに取り上げてもらうのはオンラインでも同様に効果的ですが、反応のスピードが速い。ただ商品が動くかは別ということもわかりました。オンラインでは商品が並んでいるだけではダメといわれますが、ほとんどのサイトはモノの羅列になっています。自社サイトではバッグを持つ時のイメージがふくらむようなコーディネートを見せたり、シーズン毎の限定商品を出したりしてきましたが、こうしたきめ細かな企画の投入は自社だから出来ることです」と小川さん。実際にKOSHOのサイトでは商品紹介ページにバッグを持つモデルの身長が記載されているなど、オンラインでも商品の伝えたいことに工夫が凝らされています。
SNSが来店誘因になっている
「WEBの情報サイトで紹介していただくとお客様の反応につながります。お客様は“京都・手作り・カバンといったキーワードで検索したらKOSHOが出てきた”といって来店される方も多いです」というのは中村さん。インスタグラムやLINE広告の反応も上々で、こうしたSNSで見たお客さんの来店も多いといいます。「お店をオープンしてから来店される方は、ほとんどがサイトで見て来られる方です。来店されてから実際の色を見て決められたり、帆布は重いというイメージがあるからでしょうか実際に手にすると軽いから驚かれたり、現物を前にするのとサイトで買うのでは選ばれるものも違うようです」という中村さんによればインスタグラム経由のお客様は8割を占め、そこから自社サイトで品定めした上で来店する人が多いとか。北海道や東京など遠方から京都旅行を兼ねて来る人も少なくないといいます。
実際に取材に伺っている際に来店したご夫婦は東京からKOSHO目当てに来たとのこと。お話を伺うとインスタの“おすすめ”に出てきて、気に入ったのでブックマークし、旅行に行くならKOSHOで実物を見たくなって京都にしたといいます。この日も実際に持ってみるとチェックしていたバッグよりもひとサイズ小振りなものがフィットしたとのことでお買い求めになりました。
オンライン+路面店から生まれるもの
オンラインでの取り組みからリアル店舗の必要性を感じて、ショールームを兼ねたショップをスタートしたKOSHO。「伝えたいことを伝えたらお客さんの反応として返ってくる。これはオンラインでも小売店でも同じだと思います。売れている小売店やブランドは、それがちゃんとできているんです」という小川さん。まだまだトライアルの段階といいますが、ショップに足を運んでくれるお客様の顔や声から得たものが、次の施策へとつながっていくのでしょう。“オンラインの世界観を知ったことで変わった”という小川さんは、SNSをはじめとしたメディア戦略や店舗での接客を通じて若いスタッフに委譲する部分を増やし、ブランドの刷新を進めていこうとしているように感じました。今後はシンプルなトートバッグに襲の色目のエッセンスを入れたougiに代表される大人の女性に人気のブランドだけでなく、多彩な色のレパートリーを生かした年齢層の拡大もあるでしょう。また店頭にいるとカップルの来店が多いことに驚くといいますから、ジェンダーレスの商品が生まれてくるかもしれません。この路面店がある意味で実験の場となり、ファンマーケティングの核となって、KOSHOは新たな発信を行っていくでしょう。リアルとオンラインを組み合わせたKOSHOの施策は、ものづくりだけでなく京都の伝統産業にとってもひとつの指標となるのではないでしょうか。
KOSHOのこれまでの歩みはこちらをご参照ください。http://www.kyomono.net/feature/post-572/
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