塩見団扇株式会社
京うちわの価値を伝えたい
「京扇子は知られていますが、京うちわというと京都の人でも知らないことが多いんです」と語るのは塩見団扇株式会社の秋田悦克さん。京うちわを多くの人に知ってもらうことが必要と、新たな商品開発に取り組み、見本市出展も積極的に行っています。
京うちわは、竹の細骨を一本ずつ放射状に並べたうちわ面に、別に作られた把手を組み合わせる差し柄の構造が特徴で、都うちわや御所うちわとも呼ばれ、漆や金などの装飾や優美な絵が施された工芸品であり、実用性だけでなく装飾品としても利用されてきました。「京うちわは今では和雑貨として扱われていますが、かつては日用雑貨でした」と秋田さんがいうように、元々は涼をとる道具として宮廷から庶民に広がっていたものですが、扇風機やエアコンの普及と共に役割は変わっていきました。「昔は商店の方が夏のおつかいものにうちわやタオルをお使いになっていました。その後も生保のレディさんや飲食店のノベルティとしての需要もあり、相当量を作っていました。うちわは夏物ですから秋冬にも売れる商品が欲しいということで先代が始めたのがカレンダーです。年末のおつかいものの定番でしたから、同じ販路で売っていただけるというメリットがあり、弊社の1つの柱となりました」
市場の広がりを求めて
こうしたギフト需要に対応した商品を手がける一方で、秋田さんは京うちわの新たな販路の開拓を課題と考えて商品開発に取り組んできました。「京うちわは昔から京都の工芸の技を集めて作ってきた歴史があります。浮世絵は襖絵などを描いていた絵師の仕事ですし、植物や風景などの絵柄は友禅染めの絵師、透かし彫りは友禅の形彫り職人、織物や刺繍を使ったうちわもありますし、伝統工芸の職人さんが近くにいるから生まれたものがたくさんあります」という秋田さんは京うちわの伝統は守りつつ、個人客に向けて売れるものをという視点からデザイン面を刷新していきました。観光地の土産物店に向けては、増えつつあった外国人観光客にアピールするようなモダンなデザインを企画するなど、パーソナルユースにもプレゼントにもなる商品を提案していきました。さらに東京オリンピックで訪日する外国人に向けての商品を開発しようと2018年から商工会議所の「あたらしきもの京都」に参画し、ギフトショーへの出展を通じて新たな市場の展望へも歩み出しました。
「当初は透かしうちわなどの既存商品からスターとしましたが、デザイナーの方からの提案を形にしていく過程で完成度を上げていくとか、同時に出展している異業種の方の取り組み方にも刺激を受け、時代にマッチする商品を作るためには我々が思っていた“うちわはこうあるべきもの”という概念を変える必要があると痛感しました。そこから従来の形やサイズ、使い方にこだわらないものづくりを試行錯誤して生まれたのが“森のうちわ”です。元々部屋の装飾品としてのうちわというものはありましたが美術工芸品的でない、現代の空間にマッチしたインテリアとしてデザイン性の高いものになったと思います」
折からのコロナ渦もありギフトショー出展は十分な成果を上げたとはいえないそうですが、各地の百貨店からの引き合いもあり、秋田さんは新たな販路の手応えを感じたといいます。
「今までは製造に軸足を置いていて、販路も扇子屋さんや呉服系の卸を通じて販売していました。物産協会にも入っているので百貨店の売場に立つこともありましたが、それまでとは違うチャネルでお付き合いが始まることで、どういう仕組みでものが流れていくかとか、商品の紹介の仕方などを学びました」という秋田さんは、一緒にギフトショーに出展している企業から販路の紹介をうけたり、異業種とのコラボにチャレンジしたりと市場への視野も広がったといいます。
未来に残る工芸へ
「京うちわの最盛期がいつかというのは難しいですが、日用品として製造している間は生産量も多かったですし、分業も進んでいました。かつては10軒ほどあった同業者も今では1/3ほどになっていますし、工芸としての技術を残すためにも雑貨としての販売量は必要だと思っています。数年前にうちわの柄を作ってもらっていた業者が廃業しました。国産では唯一の業者でしたので組合でも一大事となり、代わりになるところを探すことになったのですが、私は自社でも出来るようにしておかないと将来的にも大変だと思い、思い切って製造設備を揃えることにしました。手仕事の多い工程ですから作る技術を残しておかないといけないとーー」。材料や道具を作る人がいなくなっているというのは、他の工芸でもよく聞く言葉です。秋田さんは木工部分を自社で製造できるようになったことで、実験的なものづくりもできるようになり、小ロットでの商品化もできるメリットが生まれたといいますが、同時に技術や仕入れ先も含めて守っていくためには産業としてのスケールが必要だと指摘します。「高齢の名人が継承しているだけの工芸になってはいけないと思います。伝統産業として残していくには、業界の協力も必要ですし、市場を広げる努力も必要だと思っています」という秋田さんは、オンラインショップにもいち早く取り組み自社のECサイトや楽天市場にもショップを開設してきました。またポップアップの引き合いも多いことから“透かしうちわ製作”や“絵付け”体験を併せたイベント型の出店に加えて、コロナ渦で学んだZOOMを使用したオンライン体験も活用していきたいそうです。
塩見団扇の自社サイトではオリジナルデザインや写真をうちわにするオーダーの窓口を設けて記念品として需要にも応えていて、催事でのツールにはQRコードを入れてモバイルオーダーにも対応出来るようにしています。さらに異業種交流会などを通じて、うちわの技術を活用したランプシェードや飲食店の内装に団扇を使ったオブジェを提案したりと、和紙と竹と木という天然素材にうちわ作りの技術をプラスしたインテリア商材にも取り組んでいます。
「これまでも変わったものを作ってきましたし、お客様からの難しいオーダーにも応えてきたというチャレンジの精神が会社のDNAとしてあるのだと思います」という秋田さん。未来の京うちわがどんなカタチを見せてくれるのか楽しみです。
塩見団扇株式会社
京都市山科区小野西浦町24-3
TEL : 075-571-7515