市場をリサーチし 京焼の今を創る – 京ものストア
市場をリサーチし 京焼の今を創る
2022.09.01

洸春陶苑

買った人が使い方を決める

 「これは色によって刷毛塗りと釉薬掛けを使い分けていますが、釉薬は濁りや燻し感の出る独自のもので、同じ色でも焼くときに窯の中で変化して微妙な色合いの差が出ます。写真ではわからないくらいの差ですけど、個体差があるのが味わいかな。型は徳利の派生形で自作のものです。春のDIALOGUEにも出したんですけど、好評で結構売れてしまいました。一輪挿しとして出したんですけど、買われた方がアロマデュフューザーとして使っていると聞いて、なるほどと思いました。お客さんが使い方を決める余地があるというか、シンプルですけど感性を刺激するデザインかな」という高島慎一さん。

 有数の陶磁器産地である日吉地区の京焼工房の3代目です。もっとも高島さんがこの道に入ったのは、結構遅くて20代の後半のこと。大学の理学部で化学を専攻し大学院に進みましたが、研究者になるつもりはなく飲料メーカーで商品開発やマーケティングを手がけていました。「父は家業を継がせる気はなくて、自分の代で終わらせるつもりだったようです。でもしばらくして10年後の自分の姿が描けないことに気がついて、実家から通っていたので工房でいろいろ考えている内に、まだ終わらせることはないかなと思い至って退職しました」。

一輪挿し 
Kyoto Crafts Exhibition “DIALOGUE”でも好評を博した一輪挿し。

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僕は人の知恵の結集でできている

「高校時代に工房が忙しいときには手伝っていたし、まったく陶芸を知らないわけではなかったので、まぁどうにかなるかなと思ってーー」家業にはいったのが1997年頃。ところが2003年に父が他界し、自分で切り盛りすることに。「父は教えるというよりは、見て覚えろというか、やるならやってみたらという感じだったので、ノートは残っていましたが、それだけで創れるものでは無かった」。高島さんはわからないことがあると近所の先輩や業界の人たちに聞いてひとつずつ克服していったといいます。洸春陶苑の特徴の一つは鮮やかな発色が印象的な交趾技法。アイシングクッキーのように粘土をペースト状に溶いて袋から絞り出して描画する“いっちん”という技法によるもの。これも教えられたことはなく、父の視線を背中に感じながら、自分なりに試行錯誤して身につけていったそうです。

いっちん実演
浅草のアミューズミュージアム(現在は閉館)で開催された「Kyomono Showcase展2013」で実演する高島さん。

市場の声に耳を傾ける

 家業に戻って数年で工房を切り盛りするようになった高島さんは、作家として個展や販売会にコーナーを設けて売場に立つなど、作家としての活動に注力しました。

 「若いときは作家に憧れがあって、作品づくりに邁進しました。でもお客さんと話をしたり、小売店さんと話をしていると、どんなものが売れるか、どんなものが好まれるかということが気になるんです。ものをつくるときにも、どうしたら売れるか、好まれるかを考える自分がいて、それは作品づくりからいうと邪魔になる。それで作家は自分には向いていないと思うようになった。僕は市場を見て創る方が向いているなと−。」と思うに至ったといいます。もともと家業に入ったときにも、今の流通だけでは厳しいと感じていたという高島さんは、従来の問屋に頼る販売だけではなく、今でいう小売店でのポップアップなど、お客さんの動向を肌で感じる方向にシフトしていきました。

 また同時に、組合や行政の支援を受けた展示会などに積極的に参加するようになりました。「人に会うことで、すぐには商売にならなくても5年〜10年たって実になるものがあると実感しました」という高島さんは、40歳を過ぎた頃からは「出られるところには全部出る」という意気込みで、多くの展示会に出展し、お客さんの声を聞き、自作品への評価を確かめ、他社の売れ行きなどリサーチを繰り返す中で、“売れるものづくり”を高めていきます。

「京都伝統工芸研究所展2015」(ホテル椿山荘東京)の出展風景

 「もともと、ものづくりは好きだったので、就職先も研究所ではなくてメーカーを選びましたし、会社では新設されたプロダクトマネージメントのセクションでしたから、商品開発と営業をつないで売っていく面白さもわかりました。家業の陶芸はいろいろなことを自分で決められるのるところが魅力でした」。なぜ家業を継ぎ、陶芸の道を選んだのかと尋ねたときに、こう答えた高島さんは企業での経験の中でマーケティングの重要性を感じ取り、家業にも生かせることがあると感じていたのでしょう。

無印以上、工芸以下というマーケットを狙う

 京都は家内生産の工房が多く、不況にも耐えることが出来るので、逆に規模が小さく倒産の危機というような構造転換の機会を失っているし、それが伝統にしがみつく要因にもなっているのではないかと指摘する高島さんは、今の業界に警鐘を鳴らします。

 「これまでの京焼のような高級品はだれが買うのでしょうか。京都だから、京焼だから手作り、高級品を作るという必要は感じていないし、百貨店の美術画廊もかつてのようなステータス感がなくなってきています。昔ながらのものづくりは、だれに向けて創られているのかわからないと思いませんか。僕は“無印以上、工芸以下”という市場に可能性があると思っています」という高島さんは、デザインウィーク京都など若い世代の活動への参加や他産地の新たな動きにも目配りを欠かしません。

 「今、人気の波佐見焼をみると価格帯は無印よりですが、日常食器の伝統を現代にフィットさせることが出来ています。価格だけではなく、今の人が欲しいと思えるものを創っています。波佐見焼はコンセプト作りやストーリーが上手いと思います。もちろんマグカップをスタッキングできるとか高い技術があることももちろん、経営者も職人も若いんです。

 僕が見学に行ったときもファクトリーカフェのような施設があって、元製陶所の広い跡地に、カフェやショップがいろいろあり、移住してきた若い人がその店をやっていると聞きました。地元の老舗メーカーが若い人に自由に使っていいと解放したみたいです。そういう動きが街づくりにもつながり、クラフトツーリズムのような形で行政も応援しているみたいです」。地方の産地と京都では規模も置かれている環境も違いますが、京都のものづくりには大胆な変革のパワーが欠けていると高島さんは感じているようです。

トレンドをつかむことが新規客づくりに

 「今年で50歳ですから、自分が少しずつずれていってるのがわかるんです。若い人が作ったものを見て、“これが売れるの ? ”と思うときがあると“ヤバイ、年寄りになってきている”と感じるわけです。30〜40代の人たちが参加する展示会に出るのも、今のトレンドをつかむためですし、それが新しいお客さんをつかむことにつながっています」

Kyoto Crafts Exhibition “DIALOGUE出展風景

 京都では窯元業は減っていますが、若い陶芸家は増えているという高島さん。「今、器ブームで、これに乗っかっている若い人も多いですし、アートの分野で海外でも活躍している人もいますから、京都の陶芸はまだまだ変わっていくかもしれません」と若い世代の動向にも目を向けながらも、近年では照明器具やアートパネル、ルームサインや手洗い器、タイルなどの建築分野の商品開発も行っている高島さん。新たな出会いこそが、次に進むエネルギーなのだと教えられた思いです。

有限会社 洸春陶苑

京都市東山区今熊野南日吉町148

075-561-5388

https://kyoyaki.com/kamamoto/kochungama/