株式会社 江村商店
2021年7月、京都商工会議所食品・名産部会の主催による「第13回食のつどい・伝統工芸品新商品開発企画コンペ」でグランプリを受賞したのが江村商店の「友禅のうつわ」。京都出身のタレント安田美沙子さんが監修した「SDGsの時代にこどもたちに使わせたい道具を伝統工芸の力で」というテーマのもとに公募されたコンペで、京友禅文様の布を挟んだガラス皿を出品して見事グランプリを獲得しました。
審査にも参加した安田美沙子さんは2019年に日本の職人の古きよき技術を新しいプロダクトに落とし込むFOUR・O・FIVE(フォー オウ ファイヴ)というブランドを立ち上げ、京都の金網つじや開化堂ともコラボを行ってきました。「バックグラウンドをもつ伝統工芸品はどこか新しさも感じられて、それを今のライフスタイルに馴染むデザインに落とし込んで届けたい」という安田さんのコンセプトにも通じる現代性が江村商店の受賞作にはあったのでしょう。
着物に息づく職人技を菓子づくりの視点から再生
「着物の機会が減る中で現代に合ったものを作りたかった」という江村和博さんが、この商品を考案したのは実は2013年。呉服卸と白生地製造を手がける江村商店の4代目として、一時は菓子職人を目指していたが家業を継ぐことになり、職人技が込められた反物を着物以外にも生かしたいと商工会議所の販路開拓事業に参加。お菓子作りをやっていた背景から、着物地を食器に生かしたいと持ちかけたところ、同事業「project kyo-to」のアドバイザーを努めていたプロダクトデザイナーの日原佐知夫氏とアイデアを交換する中で、生地をはさみ込んだ硝子皿を作成してみようということになったのだそうです。
着物地よりも薄い珍しい生地を扱っていたり、白生地を織る家業のネットワークを生かして食器に適した着物地の試作を重ねました。また菓子職人の経験からお皿は引き立て役だから主張しすぎてはいけないと、金糸や銀糸を織り込んだり、シンプルな文様に染めることで、和洋どちらのテイストにも合う着物地をガラスに溶けこませたような器が生まれました。
「淡く儚く消えゆく日本の美(伝統文化)を大切に残したいという思いが生まれ、その思いと友禅染めを施した生地を硝子の中に閉じ込めました。和菓子、洋菓子、何の料理でもあうようにお皿そのものの主張をおさえ、料理が引き立つようなデザインや配色を施しました。いつもとは違う特別な時に、または大切な誰かをおもてなしする時に、はたまたは特別なプレゼントとしてお使い頂けたら嬉しい次第でございます。」というコメントと共に2014年の東京インターナショナルギフトショーで発表したZENやKINKAKU GINKAKUと名付けたシリーズにつづいて、2015年には友禅硝子皿を発表。素材やガラスの厚みを何度も試行錯誤しながら完成度を高めてきました。2018年から京ものストアに出品している「西陣のうつわ」は西陣織をガラスとEVA樹脂で挟み込み、表面は艶やかな透明ガラス、裏面は樹脂加工が施された西陣織という作りで、多色の糸の織り目の質感が透けて見えながら、裏面は滑り止めとガラスの飛散防止効果があるという美しさと機能性を備えた優れものです。
V.I.P.に重宝される美しさと実用性
こうした粘り強い取り組みから評価は徐々に高まり、裏千家今日会の贈呈品に選ばれたり、前京都府知事の海外からの要人のお土産に使用されたりと、付加価値が認められてきました。また日本の優れた商品・サービスを発掘し国内外に発信する「おもてなしセレクション」でも地域ブランド賞(2017年)を得ており、コロナ渦以前は百貨店催事にも積極的に参加してきました。海外のお客様に向けて日本の文化をアピールしながら、お皿というワールドスタンダードな用途をもつ商品は、贈られた方がどう使うかという楽しみをふくらませることのできる品であり、見て使って飾ることもできる多様な特性を持っています。
「西陣のうつわ」を催事で目にしたお客様から、思い出の着物をお皿にして欲しいというオーダーも入るようになり、江村さんも思いがけないところにもニーズがあることを知って驚いたといいます。
アート作品として新たなステップへ
「和柄が美しいというだけでなく、伝統の技法をアップデートしていくような取り組みをしていきたい」と語る江村さん。2020年にはパリのメゾン・エ・オブジェに出展。工芸品ではなくアート作品として見せたいという意図から、ウォールアートとお皿のコーディネートを展示しました。ガラス板という特性から立体的なものは作りにくいということですが、友禅染めや西陣織の生地を使いながらガラス板とコーティングの異なる素材感を生かした組み合わせで、奥行きある色の重なりを表現したモダンアートを作り上げました。京都府の海外市場向け販路開拓事業「PRECIOUS KYOTO PROJECT」に参画したこの出展は2021年も継続し、さらに飛躍を目指していましたがコロナ渦のために展示会が開催中止に。けれども、この試みに手応えを感じた江村さんは、ホテルやレストランの空間を彩るオブジェとしての可能性を追求して試作を重ねています。
着物地を生かした食器づくりという発想からスタートした江村さんの商品開発の歩みは、さらに広がりのある分野へのチャレンジに羽を広げたように思えます。“お料理の器と空間演出を友禅や西陣織を使ったガラスのアートワークでコーディネートすることで、和洋を超えた視覚と味覚の融合から至福の時間を生み出すことができるのではないか”という江村さんは、食器から発展して体験の創造へとつながる新たな道を歩み出しています。
株式会社 江村商店
京都市下京区高辻通新町西入堀之内町282番地
TEL : 075-341-5291