洗練の極致に達したインテリアとは
かつて桂離宮を訪れたドイツの建築家ブルーノ・タウトは「趣味が洗練の極致に達し、しかもその表現が極度に控えめである。これ以上単純で、しかもこれ以上優雅であることは、まったく不可能である」と絶賛しました。ここで語られている桂離宮の和室に用いられていたのが「一面の金地模様が施されているだけの」襖紙でした。この襖紙が「からかみ」です。
「からかみ」は奈良時代に中国の唐から伝わった美しい細工紙で、文字を美しく見せると上流貴族の間で手紙や詩歌を書く為の料紙として愛用されていました。平安時代になり都で「からかみ」が生産され始めると、貴族文化に浸透し、寝殿造りの住居の襖障子にも使われ始めます。後に公家から武士・茶人、江戸時代には町衆に親しまれるようになりますが、京都でつくられる「からかみ」は、特に「京からかみ」と呼ばれ平安時代から続く貴族好みの優美な文様に特徴があります。時代とともに施主の好みを反映してきた「からかみ」は今も、襖・壁紙など室内装飾の伝統工芸品として伝え続けられています。
そして今、嵐山に位置する「星のや京都」や鴨川沿いに建つ「ザ・リッツカールトン京都」などのラグジュアリーホテルの客室やロビー、バンケットで目にする「京からかみ」を手がけているのが株式会社丸二です。
「京からかみ」は朴の木で手彫りした古くから伝わる伝統文様の版木を使い、その表面にキラ・胡粉と呼ばれる絵具を付け、和紙や鳥ノ子紙に柄を合わせながら一枚一枚、手の平で文様を写し出す伝統的な手法です。
こうして刷られる「京からかみ」の風合いは、素材の組み合わせによって千差万別で、版木の柄と顔料の色、そして摺る紙質によって、様々な表情のインテリアを生み出すことができます。
伝統の「京からかみ」をモダンインテリアに
江戸時代に広がった「からかみ」は、東京では粋を好む気風を反映して「江戸からかみ」が生まれ、当時は京都に13の業者があり、大坂や江戸にも多くの業者が「からかみ」を製造していたそうです。ところが印刷技術の進歩で、襖や壁紙も機械刷りに取って代わり、今では京都にも2社を残すのみとなっています。
この伝統の「京からかみ」の世界観を紙の上だけでなく、立体的に現代空間に広げようとしているのが丸二の四代目、西村和紀さんです。西村家に伝えられてきた版木をもとに、ホテルやレストランへのアートパネルの提案、照明、ギフト商品など、「京からかみ」を知ってもらい、インテリアに活用していただけるようにと、次々と新たな試みを行っています。
最新技術で広がる「京からかみ」の世界
西村家に伝わるもっとも古い版木は江戸時代のものもありますが、永年の使用で劣化したものも多いといいます。西村さんは古い版木を手彫りで復刻したり、最近では版木の文様をデータ化してレーザー加工機で彫るなど、「京からかみ」を守っていくために最新の技術を活用しています。
またこの試みの中で、データ化によって紙以外のものに文様を活用するプロダクトが生まれたほか、文様を縮小して版木をつくることもできることから、伝統的な版木と同様の朴の木に文様を彫った「からかみキット」を開発しました。 このキットはギフト商品として重宝される他、からかみの手刷り体験にも活用できることから、西村さんは自社ギャラリーでオリジナルのポストカードなど体験教室を実施しています。
からかみの技術を使って、もっと新しいものづくりを
伝統の技や文様を活用しながら現代の生活に「京からかみ」を広げていきたいという西村さんは、常に新たな試行錯誤を繰り返しています。
昭和40年代まで京都でつくられていた「漆からかみ」の復刻もそのひとつ。顔料の替わりに漆を使うことで、立体感のある豊かな表情が生まれる技法ですが、版木が傷むことから廃れてしまっていました。西村さんはこの技に現代的な技法をプラスして、漆独特のツヤとインパクトある表情を獲得しました。この「漆からかみ」はホテルに取り入れられ、現代建築の内装材として新たな可能性を切り開こうとしています。
株式会社 丸二
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