中村ローソク
未知の体験から和ろうそくを知って欲しい
京都・梅小路公園界隈の水族館やホテルを舞台に、絵やメッセージが描かれた行灯に和ろうそくの灯りが揺れる“キャンドルナイト梅小路 伝燈祭”。2019年から行われているこのイベントの仕掛け人の一人が、創業130年を超える中村ローソクの田川広一氏です。
「最初は3,000本ほどのろうそくを公園の芝生広場や朱雀の庭などに並べて、点しました。コロナ禍のときはオンラインでの開催もありましたが、和ろうそく独特の炎のゆらぎを感じてもらえるリアルな体験の場として続けていきたいと思っています」という田川氏がこうしたイベントを手がけるようになったきっかけは神戸の震災の慰霊行事。ボランティアで和ろうそくを提供したり、シェードや行燈の準備に携わるなかで、ノウハウが蓄積されていきました。それまでも寺院の夜噺の茶事に和ろうそくを提供することはありましたが、あくまで作り手としての裏方の仕事でした。自分たちで和ろうそくを使ったイベントを手がけるようになったのは、コロナ禍で寺院の法事需要がなくなり、なにか和ろうそくを使う機会をつくらないと日々の仕事が失われる危機感からでした。
日本の夜の文化を発信する
「それまでも和ろうそくは植物性原料なので、石油系原料の西洋ローソクより油煙は少ないし、環境に優しいことや炎の揺らぎが癒し効果があるとか、手作りの魅力があるものとか、和ろうそくの啓蒙を行っていましたが、もう一歩進んで和ろうそくを通じて日本の夜の文化を発信していこうと思うようになりました」という田川氏。そこから生まれたのが和ろうそくの灯りで舞妓の舞を見る会や日本酒を楽しむ会といったイベントです。最初は東京のホテルの企画ではじめたものですが、コロナ禍で会場を寺院に移して開催するようになりました。
「映像を見ていてもヨーロッパのお城はキャンドルやランプといった昔ながらの灯りが生かされています。ところが日本の城やお寺にはろうそくの灯りなど無くてスポットライトが当てられている。これはおかしいですよね。和ろうそくの灯りで楽しむことを知ってもらえば、着物や陶器や漆器、和食の見え方も違ってくると思います。和ろうそくの灯りで日本文化を見てもらう機会を作らないといけないという思いがあって、はじめたイベントが地域起こしの催しにつながっていきました」という田川氏、和ろうそくを楽しむイベントを通じて新たな顧客との出会いもありました。京都で開催したイベントの告知を見たり、参加した人から、自分のところでもやってみたいという声や和ろうそくのオーダーが増えたというのです。「灯りのイベントを地元でやってみたいから話を聞かせて欲しいという行政や青年会の方とか、講演の依頼もありますし、ホテルや飲食店からは和ろうそくを使ってみたいから送って欲しいとか、地方の方の熱意の高さを感じています」。こうした田川氏の取り組みが地域起こしに活用されているのが、梅小路公園の伝燈祭や11月11日に伏見港で開催される「伏見みなとあかり」です。
「伏見みなとあかり」
ふしみなーとフェスタ2023にあわせて開催される和ろうそくの灯りのライトアップ。
11月11日(土曜日)午後5時~午後7時
13時~16時には行灯の絵かきワークショップも開催されます。
■場所 ふしみなーと(伏見みなと公園広場及び伏見港公園 京阪電車中書島駅 徒歩5分)
伝統に新しい風を呼ぶ
田川氏は和ろうそく職人ですが、ものづくりだけを行ってきたわけではありません。和ろうそくと和雑貨を扱うショップを開き、修学旅行生向けの体験教室のできる施設を作り、新商品の試作を販売する企画展に参加したりと一般消費者との接点にづくりも積極的に行ってきました。
「ショップや体験は少し早すぎたかもしれません。今は海外のお客さんが竹田の店を探してわざわざ来てくれたりするので、店にはボケトークも用意していますし、インターネット環境が一般化したことで随分変わったと思います。ただ製造と卸をしているだけでは商品開発ができないし、新しい風が入ってきません。店舗があると試作した商品の反応を見ることが出来ますし、お客さんの声を聞くことで新しい発想も生まれますから」という田川氏。ショップは5〜6年続けていましたが採算面では苦しかったそうです。けれどもこうした取り組みから、ディズニーと京都の工芸がコラボしたプロジェクトや色と香りを楽しむ和ろうそくブランド“京ROUSOKU+”が生まれ、和ろうそくの炎の煌めきがヨガや瞑想にマッチするという声を商品化するなど、新しい試みにつながりました。
灯りからインテリアへ
田川氏がショップのオープンや展示会への出展をはじめると共にスタートしものに絵ろうそくがあります。もともと東北や北信越など寒い地域では、冬になると雪で覆われるために、仏壇に花を添えることができなかったので、生花の替わりにろうそくに花を描いて飾ったのが絵ろうそくはじまりといわれます。京都には絵ろうそくの伝統はなかったのですが、田川氏は友禅絵師が描く花や伝統模様のろうそくを縁起物として商品化しました。インテリアとして飾って楽しむとことで、ろうそくを生活に取り入れてもらおうという提案です。一つ一つ手描きするので、絵柄のバリエーションは伝統的なものも、可愛いポップなものも可能です。またろうそくと組み合わせる燭台にも焼き物や鉄製、北山杉などを用意して、インテリアに合わせたコーディネートができるようにしました。こうした試みによって和ろうそくは伝統的な灯りの道具から、現代の暮らしに活用できる商品というポジションを持つことが出来ました。今秋には専属の若い絵師による、飾って楽しむ絵ろうそくをコンセプトにしたショッピングサイト「イロドリ」をスタートし、季節ごとの絵柄や限定品を販売しています。
“伝燈祭”で使用する和ろうそくは、下京区の寺社仏閣で使用済みになったろうそくから、蝋を溶かして再成形した環境に優しいもの。また燃え残った芯は木くずと混ぜて着火剤として販売するなど、田川さんは和ろうそくはSDGsをビジネスとしても成立するものだといいます。仏教文化や芸能のなかで発展した和ろうそくをインテリアやリラックスグッズとしても提案するなど、時代とともに生きる和ろうそくに挑戦する姿勢は、未来の伝統産業への1つの指標といえるでしょう。
有限会社中村ローソク
〒612-8413 京都市伏見区竹田三ッ杭町57-8
075-641-9381
「イロドリ」
和ろうそく絵師によるかわいい手描き絵ろうそくのサイト