昇苑くみひも
世界の国旗カラーをモチーフにした201種類にも及ぶ根付、マスクチャーム、ストラップ、くつひもなどのアクセサリーから茶筒やコースターなどのインテリアまで、組紐を用いた多彩な商品を生み出している昇苑くみひも。元々は着物の帯締めや髪飾りとして発展してきた組紐ですが、和装需要の減少と共に新たな姿に活路を見いだしてきました。
和装と共に磨かれた工芸品
繊細で複雑な糸を組み上げて作る組紐は、強度のある実用性と美しさから平安時代には仏具や貴族の装飾品として使われ、武士の時代には鎧や刀を飾ってきた歴史を持っていますが、昇苑くみひもが誕生した1948年頃には、着物の帯締めの用途が広がり和装産業の隆盛と共に成長してきました。
当初は組台という昔からの道具を使って手作業で1本1本の紐を組む“手組”での生産でしたが、需要の拡大と共に機械化され紐を組むための製紐機を導入した生産体制が確立されていきます。昇苑くみひもの工房では今もこの時期に導入された機械が活躍しています。60台ほどの製紐機は手組の技術や知識を大切にする職人たちが微妙な調整を行ういながら組み上げていくことで、機械組ながら工芸品としての評価を得ているといいます。
携帯ストラップが契機に
「新商品のアイデアはみんなで持ち寄って考えています」というのは宇治本店の前野由紀店長。「店舗のスタッフ、工房の職人、営業の人からもいろいろなアイデアが出てきます。元々は帯締めが主流だったのですが、10~15年ほど前に和装の先行きが芳しくなく、前社長が帯締めに替わるものはないかと音頭を取って新商品の開発をはじめました」。今日のようなアクセサリーへの転換は、2000年頃にガラケーに付けるストラップがヒット商品となったことで加速していったそうです。それからは前述したような多彩な商品を送り出す一方で、他の分野とのコラボやB2Bのオリジナル受注はじめ新規の用途開発にも取り組んできました。そのひとつが今春にもお目見えする京都地下鉄の新型車両です。この車両では普通はプラスチックが使われる吊り手の鞘に皮むき加工した北山丸太が使われ、それに組紐を巻くデザインになりました。しかもデザインも数種類あり、紐の組み方も車両によって異なるというこだわりようです。
伝統技の継承
昇苑くみひもでは機械を用いて紐を組む“機械組”と昔から続く“手組”でのものづくりを両立していて、高級な帯締めは今も手組で作られています。また気軽に組紐に接して知ってもらおうと手組体験や50年以上の歴史を持つ組紐教室の運営にも取り組み、技術の継承にも力を入れてきました。
紐の文化を未来へ
「紐を組む技術だけでなく、製品加工を担っている作り手が在籍しており、組紐の用途を大きく広げる役目を担っております。この“手作りの製品加工”におきましては、社内の十数名の作り手を中心に、宇治の町中に弊社の技術を有した作り手とのネットワークが構築されています」とはHPに記された言葉ですが、この“宇治の町全体で手作りの商品を実現している”という姿は、工芸の周辺にある文化を大切にするという価値観にもつながるものです。“モノからコトへ”とはよく言われることですが、創業の地である宇治を舞台に組紐づくりから発した手技との出会いが、今に生きる工芸の未来像を示しているように思います。より文化的に、より良いものと暮らす生活を求めて宇治を訪れる人が増えることを願っています。
有限会社 昇苑くみひも
京都府宇治市宇治妙楽146番地の2
0774-66-3535(宇治本店)