100年の輝きを次代へ
京都を代表する西陣織をはじめ、豪華絢爛な織物や刺繍に用いられる金糸銀糸。金糸は酸化しないため100年はその輝きを失わないといわれ、古くから高貴な人々の装束に用いられてきました。
明治30年以来、金糸銀糸の製造卸として伝統産業を支えてきた寺島保太良商店は今、新たなジュエリーブランドの開発にチャレンジしています。 金糸を使った新しい商品開発に取り組んでいるのは4代目の寺島大悟さん。2011年から商工会議所の販路開拓事業に参画するなど、商品開発を通じて金糸銀糸の需要を広げたいと努力してきました。
「金糸銀糸の光沢は金属特有の輝きが魅力」という寺島さん。西陣織に織り込まれ、祭りの刺繍幕、歌舞伎の衣裳、相撲取りの化粧まわしと、金糸銀糸は京都の伝統産業と共に発展してきました。今でも全国の製造シェアは90%を占めています。けれども和装業界の衰退と共に需要は減り続けています。「本物の金箔で作る純金糸は、文化的財産といえる材料です。けれども市場が縮小することで作り手の継承が出来なくなってきます。例えば祭りの幕などはしょっちゅう需要があるわけではなく、数年あるいは10年以上に一度新調されるようなもので、このままではいざ必要というときに作り手がいなくて、金糸を使ってもらうことが出来なくなるかもしれない。」寺島さんはこの危機感から、金糸銀糸という材料をもっと幅広く使ってもらうために、模索を始めます。
金糸の市場を広げたい
そこで出会ったのがギフトショーに出展するという商工会議所が主催する事業でした。
「材料を売るということしか知らなくて、上代や掛け率ということも知らなかった」という寺島さん。金糸の刺繍を施した商品を携えて出展に臨み感じたのが「自分の仕事が思っている以上に川上だったということです。私の扱っている商品は材料の材料だった。商品になるまでの距離が遠いんです。」
革小物や北山杉と組み合わせた商品を考案して出展したのですが、そこでぶつかったのが「これでは金糸が生きてない。うちは何屋なんだろう?」という問いでした。
素材を提案する見せ方がわからない
「金糸銀糸のメーカーがプロデューサーとして何を出せばいいのか、悩みましたね。メーカーの方に提案する見せ方がわからなかった」と寺島さん。素材需要の掘り起こしをプロダクト化する方法から素材として見てもらおうと素材展にも参加しましたが、来場者の反応は「せめて生地になってたら」というもの。
「出展によっていろんなお話しをもらったんですが、着地するまでに時間がかかるんです。」
出会いと縁がブレークのきっかけに
それでも毎年のように出展事業に参加して模索を続けてきた寺島さん。事業のアドバイザーとミーティングを繰り返し、展示会では同じブースに出展する先輩たちからいろいろなアドバイスをもらったことで成長していきます。
そして天啓ともいえる一言に出会います。
それが2016年の「あたらしきもの京都」と題された事業に招かれていた百貨店のアドバイザーから「これはアクセサリーにしなさい」という言葉。
そこでこれまでの出展を通じて知己のあったジュエリーデザイナーのコバヤシタカシ氏に助言を求めました。
それまで素材として興味を持っていたコバヤシ氏は、改めて寺島さんから見せられた束ねた金糸を見て「このままでキレイなんだから、このままジュエリーにしましょう」といったといいます。
「束ねた金糸は普通に納品するかたちで、プロダクトになるなんて考えてもいなかった」という寺島さん。コバヤシ氏は束ねた金糸の感じがいいと感じ、束ねた表情、自然な表情を生かすこと、金糸を束ねるということがコンセプトになっていったといいます。そこでネーミングも絲tabane(たばね)となりました。
金銀糸の未来を拓く
絲tabaneを携えて臨んだギフトショーでの反響は予想外に良く、百貨店の催事出展にも声がかかり、寺島さんは売り場でお客様と直接対面するという機会を得ます。
「絲tabaneはいい評価をいただき、ほめていただくことも多いのですが、いいねから、欲しいに至るあと一押しが必要なんですね。それができたときこのブランドのストーリーが完成するのかなと思っています。」
この絲tabaneが出来ることで、今までとは違う形で世の中の人に知ってもらっていくことが実感できたという寺島さん。これで金糸銀糸がいろんなモノづくりやデザインに使われていく可能性が拓ければ、こうしたチャレンジが、日本の伝統文化を守っていくことにつながると語ります。
「絲tabaneはイメージリーダーという位置付けです。これをフックに金銀糸の需要を高めていくことが、私の目標です。」
(株)寺島保太良商店
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